SHINE ON YOU CLAZY DIAMOND【空条承太郎と東方仗助】

「仗助、誕生日おめでとう。幾つになった?」

「16ッす!もう大人ですからね〜、コーヒーだって飲めますぜッ!」

「……よく言うぜ。」

 エスプレッソを一息に飲み干した承太郎は、仗助の得意げな表情を眺めて微かに笑う。大人になったと満足げに笑う少年は、今日もカフェオレにたっぷりと角砂糖を溶かしているのだ。

 杜王町駅前のカフェドゥマゴ。陽も傾きかけた初夏のオープンテラスは、学校帰りの学生で賑わっていた。

「フェラガモの靴なんて貰っちまって、なんだか申し訳ねェッス。」

「狩の報酬といったところか。それにその顔は、申し訳なさそうな表情とは言い難いな。」

「へへッ、バレました?実はこのローファー、狙ってたンすよねェ~ッ!なンで、滅茶苦茶嬉しいッス!」

 承太郎はこれと似たようなやり取りを、過去既に11回も繰り返している。そして今日は仗助の16歳を祝う、12回目の誕生日なのだ。承太郎は毎年叔父の16歳の誕生日に、彼の喜びそうなプレゼントを用意してきた。去年はGUCCIのビットローファー、一昨年はバリーの財布、更にその前はフェラガモのジャケットだ。いずれも16歳の高校生にとっては高級品だが、仗助にはそれが似合うのだから仕方がない。

 仗助というダイヤモンドは16歳の時点で完成された、欠けることの無い結晶体なのだ。

 承太郎は毎年この日に、「時間」について考える。

 時は言うまでもなく不可逆で、流れるとするならばいつでも一方を向いている。だが人が口にする時間という言葉には、方向と意味の異なる二つの概念が重なっている。すなわち、流れる時としての時間と、動く自己としての時間である。

(俺は時が流れることを止めている。お前は時の中を動く事をやめている。俺たち二人は、いずれも異常な時間を刻む、狂った時計を持っている。)

 二人は杜王町という標本箱に、永遠に噛み合うことのない時の歯車を持ち寄っている。古今東西の時計が、其々バラバラに針を動かしている博物館のガラスケース。それを眺めるのと同じように、二人は互いの狂気を明晰に理解し、そして同時に無視しているのだ。

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Da vicino nessuno è normale.